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暗い顔つきの法律 [未分類1]

秋田魁新報コラム 北斗星(12月7日付)  

ちょうど80年前の2月、作家の小林多喜二は東京・赤坂の路上で特高刑事らに捕らえられた。その場面を想像するたびに、痛ましいことだ、との思いが突き上げてくる

▼世間から身を隠していた多喜二が、仲間と落ち合うため飲食店に入ると、そこには刑事が待ち構えていた。仲間内にスパイがいたのだ。逃れようと電車通りに向かって走る。刑事たちは「泥棒」と叫びながら追い掛ける

▼そう叫んで追うのは、通行人らの協力を求めるためで、当時の特高刑事のやり口だった。狙い通り、叫び声に気付いた男たちが建物から飛び出し、たちまち多喜二に襲いかかった(手塚英孝「小林多喜二」)

▼多喜二は警察で拷問を受け、その日のうちに亡くなる。男たちの善意が一人の命を奪うことになったのだ。警察のスパイは、偶然にも多喜二と同じ秋田の生まれだった。登場する者たちいずれにとっても不幸な出会いであり、そんな出会いを演出した権力の冷酷さを感じる

▼きのうの夜、特定秘密保護法が成立した。多喜二が罪に問われた治安維持法は過去のものだとしても、「国民は全てを知る必要はない」と言っているに等しい新法の思想は、根っこで通じ合っているようにも見える

▼戦後民主主義の成果である「知る権利」を脇に押しやり、反対の声に耳を貸さず、与党はこの国をどこに持って行こうというのだろう。おおらかさとか自由さとは懸け離れた、人と人とを引き裂くような暗い顔つきの法律である。


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